昔々あるところに、働き者のアリさん達と遊ぶのが好きなキリギリスくん、そしてギフテッドのギフ太郎がいました。
ある夏の暑い日、ギフ太郎が日課の散歩をしていると、キリギリスくんは得意なバイオリンを弾きながら楽しそうに過ごしていました。
「楽しそうだな、僕もバイオリン弾いてみたい」とギフ太郎が思ったそのとき、キリギリスくんの目の前をアリさん達が通りました。
アリさん達は汗をかきながら自分たちの体よりも大きな食べ物をせっせと運んでいます。
その様子を不思議に思ったキリギリスくんがアリさん達に質問しました。
「そこのアリさん、何をしているんだい?」
するとアリさんはこう答えます。
「食べ物がなくなってしまう冬のために、食べ物を集めているのさ」
それを聞いたキリギリスくんは笑いながら言います。
「えーまだ夏なのに!食べ物もたくさんあるのだから僕みたいに楽しく歌って過ごせばいいのに」
アリさんはキリギリスくんの言葉は気にせず、軽く会釈をして作業に戻りました。
キリギリスくんはその後もバイオリンを弾き、歌い、その日暮らしを満喫していました。
その様子を見たギフ太郎は考えました。
「キリギリスくんみたいにバイオリンを弾きたいけど、アリさん達みたいに食べ物も集めたほうがいいよね。でもどちらもするには時間が足りないし、どうにかならないかな」
一度考え始めると、他のことが手に付かないギフ太郎。
気が付いたら朝になっていましたが、そのおかげでいいアイデアを思い付きました。
「そうだ、自動運搬ロボットを作ればいいんだ、そうすれば空いた時間でバイオリンもできる!」
「これを知ったらきっとみんな喜んでくれるだろうな」と思ったギフ太郎はアリさん達とキリギリスくんにも伝えてあげようとみんなの元へ行きました。
しかし、みんなの反応はギフ太郎が想像していたものとは違いました。
アリさん村の村長さんアリ長さんは「私達は今までずっとこの方法でやってきたのだからこのままでいいんだ」と言って詳しく話を聞いてくれませんでした。
キリギリスくんには「食べ物がなくなるなんてギフ太郎やアリさん達の考えすぎじゃないかい?面倒なことはしたくないな」と話を流されてしまいました。
想像していた反応を得られなかったギフ太郎は悲しい気持ちを切り替えてひとり黙々とロボット作りを続けていました。
秋が来てもみんなは変わらずですが、ギフ太郎はなんとかロボットのロボ吉を完成させました。
「これで食べ物集めはロボ吉がやってくれるからバイオリンができる!」とギフ太郎はバイオリンを始めました。
やがて季節は冬になります。
厳しい冬で作物が痩せ細り、キリギリスくんは食べ物にありつけず困っています。
キリギリスくんはアリさんに助けを求めに行ったのですが、アリさんには「ずっと遊んでいた君の自業自得でしょ?」と断られてしまいました。
お腹が空いて倒れそうなキリギリスくんは、最後の力を振り絞ってギフ太郎の家を尋ねました。
ギフ太郎は日課のお散歩中で家にいませんでしたが、家の中にはギフ太郎がロボ吉に運ばせて手に入れた食べ物が置いてありました。
キリギリスくんは空腹に耐えきれず、置いてあった食べ物を勝手に食べてしまいました。
調子に乗ったキリギリスくんは「どうせこのロボットが運んでいるのだから他にも予備はあるだろう」と残っていた食べ物も持って行ってしまいました。
散歩から帰ってきたギフ太郎は食べ物が全部なくなっていることに驚きます。
実はロボ吉はギフ太郎1人で作るのには限界があり、食べ物を運べる量が少なかったのです。
そのためキリギリスくんが持って行ってしまった食べ物がギフ太郎が持つ全てだったのです。
ショックを受けたギフ太郎が足元を見ると、そこにキリギリスくんの足跡が残っていることに気付きます。
食べ物を返してもらおうと思ったギフ太郎はキリギリスくんの家を訪ねました。
しかし、キリギリスくんは「なんのこと?そんな食べ物のことは知らないな。アリさんたちに取られたんじゃない?」と言ってきます。
ギフ太郎は疑問に思いながらも、アリさんたちに真相を聞きに行きました。
ギフ太郎の話を聞いたアリ長さんは「なんだと!キリギリスが嘘をついているに決まっているじゃないか!」と怒って、みんなを引き連れてキリギリスくんのもとへ殴り込みに行ってしまいました。
アリさんたちに怒鳴り込まれたキリギリスくんは、諦めたようで全て白状してギフ太郎に食べ物を返してくれました。
「ああ、良かった」とほっと胸を撫で下ろしたギフ太郎はアリさんたちにお礼を言いました。
すると、アリ長さんが「まあ気にするな。その代わりと言ってはなんだが、そのロボットを私達に渡してみないか。君みたいな若者が使うより私達のほうが上手に使えるハズだからね」と強引にロボ吉を連れていってしまいました。
ロボ吉を失い、ギフ太郎は悲しみに暮れていました。
そしてしばらく経った頃、ギフ太郎のもとにアリ長さんがやってきました。
「このロボットが言うことを聞かない。なんとかしなさい」と。
さすがにイラッとしたギフ太郎ですが、「ここで怒っても何も生まない」と思い、キリギリスくんも呼び出し二人にある提案をしました。
「せっかくなのでアリさんとキリギリスくんとみんなでロボ吉を改良しませんか?」
「アリさんの勤勉さと、キリギリスくんの器用さが合わされば僕たちみんなの食べ物を運べるくらいの改良ができると思います。」
見るからに嫌そうな二人でしたが、自分たちにもメリットがあると感じた二人は嫌々ながらもギフ太郎の提案に乗ってくれました。
いざ作業を始めてみると、最初は嫌々だったアリさんたちとキリギリスくんですが、その楽しさやお互いの良さに気付くようになり、ロボ吉第2世代が完成した頃にはだいぶ仲良くなっていました。
その様子をずっと見ていたアリ長さんも、どうやら村長の座を次の世代のアリさんに任せる気になったようです。
ロボ吉第2世代が完成したことにより、夏場の大変な運搬作業も不要になり、アリさんたちもその辛い作業から開放されました。
ギフ太郎はキリギリスくんにバイオリンを習い、アリさんたちの前で演奏したりしながら、みんなで夏の暑い日も冬の寒い日も楽しく過ごしました。
おしまい。
作:ギフ太